第一章 「透けて視える男」

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それはそれで安心なんだが、俺の脳内の疑問の答えにはなっちゃいない。 「なあ、先生…手術の影響で、その、物が透けて見えるなんてこと、ないよな?」 失笑覚悟の俺の質問。 だが、返って来たのは爆笑。 「面白いことを言いますね、佐久間さん。もしそんなことがあるなら、学会が大騒ぎですよ。」 そりゃそうだ。 ノリの良い医者のおっさんのおかげで、俺のトンチンカンな質問は程よい冗談になったらしい。 隣のナースも釣られて笑い、俺も笑って誤魔化す事ができた。 きっとあれだ、まだ麻酔が残ってたんだ。 医学的に完全否定されたので、俺は思い過ごしという結論にしておいた。 なにせ、今はもうなんともないんだ。考えるだけ無駄だろう。 だが、それはそれでちょっとばかし勿体無いな。 理性よりも本能のほうが僅かに強い俺は、そう思ってさっきサービス満点だったナースを横目で見る。 (透けろ。) なんちゃって。 「なんちゃって」はちょっとサムいか、などと思いながら一人苦笑。 そして仰天。 「ん?佐久間さん?どうかなさいましたか?」 目の前のテカテカ親父が訝しむので、俺はなんとか取り繕う。 「いや、何でもない。眼鏡無しで見えてることに、今さら気づいて驚いただけだ。」 俺のこの返答がまたツボに入ったのだろうか。医者はまたぞろ大爆笑している。 ブリーフ一丁の間抜けな姿で… (おいおい。このおっさんブリーフ派かよ…) いやいや、違う。今言うべきはそこじゃない。 俺は自分にツッコミを入れつつ、現在進行形の不可思議現象をどう処置すべきか戸惑った。 (戻れ。) 半信半疑のまま、とりあえずもう一度念じてみる。 するとどうだろう。何もないように見える空間から、色々なものがスーッと現れるように浮かび上がってくるじゃないか。 (こりゃすげぇや。) 俺はもう興奮状態。 この異常な光景をどう理解していいのか分からない。 うん。とりあえず、楽しもう。 医者が下着姿ということは、当然ナースもあられもない格好なわけで。 そのくびれたウエストや見事な谷間を、存分に鑑賞出来るわけで。
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