第一章 「透けて視える男」

5/19
前へ
/162ページ
次へ
(ん?ちょっと待てよ。一回念じて下着姿ってことは、もう一回念じれば…) イケない思いつきとアブナい妄想の命ずるまま、俺はこれ以上ないほどの想いを込めて、強く念じた。 (透けろ。) うん。鼻から赤い液体が漏れますね。これは。 何がどうしてこうなったのかは分からないが、この力が本物だということだけは良くわかった。 俺が心に念じれば、俺の目は衣服や物などを映さなくなり、その奥にある物を映すようになる。 つまり、俺は透視能力を手に入れたってことだ。 「まあ、もう大丈夫のようですし、これで帰って頂いて結構ですよ。」 奇跡の力に有頂天になっていた俺を、例のテカテカ医者がその存在を持って現実に引き戻した。 そう。この時俺は浮かれていたんだ。 だから「戻れ」と念じるのを忘れていた。 その結果、声を掛けてきた医者の方を反射的に向いた俺は、テカテカ親父のオールヌードを真正面から拝むハメになっちまったんだ… うん。最悪。 翌日。 良く晴れた日のもと、俺はルンルンでランランな気分で外へと出かけた。 一浪して一留した俺は、二十五の今でもまだ大学生。大学四年生だ。 同級のヤツらはこの厳しい不況のもと、内定を貰うべく必死にリクルート活動に勤しんでるだろうが、俺はそんなことはしない。 何故って? それは俺がいずれでっかい事をやる男だからだ。 今はただのスネっかじりだが、時がくれば大きく羽ばたいてやる。 予定だ。 昨日までなら、そんな事を言う俺はただの勘違い野郎だったが、今は違う。 この力。 透視能力があれば、黙ってたって頭角を現すこと間違いなしだ。 そこで俺は、この奇跡の力を使いこなすべく、街中へとやって来た。 青い空。白い雲。競い合うように建ち並ぶビル群。そしてそこを行き交う人々。 スーツ姿のOL。セーラー服の女子高生。オシャレな格好の女子大生。ショップ店員に買い物中の若奥様… おいおい、変な想像はするなよ。 これはあくまで訓練なんだから。 透視能力を使いこなす為に、仕方なくやってることなんだよ。 まあ、どうせやるなら良いもん見たいってのは、男のサガだな。
/162ページ

最初のコメントを投稿しよう!

526人が本棚に入れています
本棚に追加