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俺のこの透視能力。実は重大な欠陥がある。
昨日、病院から帰った俺は、さんざんちゃぶ台に向こう脛を打ちつけた結果、そのことに気がついた。
つまり、透視している間は障害物が俺の視界から完全に消えちまうってことだ。
ぶつけたのがちゃぶ台だったから部屋中を転げ回ったぐらいで済んだものの、これが刃物だったらと思うとゾッとする。
そうでなくとも危ない事の多いこの世の中だ。物が完全に見えなくなるなんてのは、かなり深刻なデメリットだろう。
そこで今の実験だ。
何度か繰り返すうちに、透視には段階が存在することに俺は気づいた。
その最終段階、物が消えて無くなる直前の状態を維持できれば、弁慶を強打するような事態は避けられるに違いない。
この画期的な思いつきは実を結び、外側の物を把握しつつその内側を覗けるという、理想的な透視術が確立出来た。
後はこれを繰り返して、瞬時にこの状態に移行出来るよう訓練するとしよう。
反復練習なんて俺は大嫌いだが、被写体が美しければまったく気にならないから不思議なもんだ。
ん?誰だ?今、俺の事、変態って言ったヤツは?
断じて変態などではない俺は、丸一日ずっと女の裸を覗きまくって、もとい、透視術の訓練をやり続けて、どうにかこうにかものにすることが出来た。
要はこの透視能力、俺の集中力が鍵って事だ。
俺が頭で念じれば念じるほど、心の中で願えば願うほど、物体はどんどんと透けていき、最終的にはこの大都会がビル一つ無い原っぱになっちまう。
だが逆に、どんなに念じてもまったく透けないものもあった。
それは人間だ。
犬や猫や鳥や街路樹など、他の動植物は物体と同じように透けていくのに、人間だけはどういう訳かまったく透けなかった。
そこには明確な理論があるのかもしれないが、俺はそういう事は気にしない。
とにかく、「集中すればするほど透ける」って事と、「人間は透けない」って事。それが分かれば十分だ。
ああ、分かったと言えば、もう一つ。
この超絶便利な能力にもそれなりの代償はあるらしい。
目が物凄く疲れるんだ。
一日中パソコンのディスプレイを睨みつけて、毎日目を酷使してる人なら分かりやすいだろう。
眼精疲労による頭痛。
これが透視の力の対価らしい。
そんなわけで、帰りに薬局で鎮痛剤を買う俺でしたとさ。
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