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康弘は見つめる、床を、そして自身の体を血で赤く染めた男を……。
ついさっきまで名前どころか顔さえも知らなかった人………。
「中々の男前だなあんた……」
男の顔をまじまじと見つめた康弘は静かにそう呟き、開き切った目を閉じさせると立ち上がった。
「いつまでもこうしちゃいられない……行かなきゃな……」
男の元から二、三歩離れると康弘は振り返った。
「すまないとは思うよ……、あんたにも大事な家族がいるだろうに。
俺があんたを殺したからもう会えない……。
だけど、謝りはしない、俺にも助けなきゃいけない人がいるから……。
しょうがない、しょうがなかったんだ………」
康弘はそう言うと踵を返し、先程までと同じ様に慎重に進み出した。
そして壁に背をつけ廊下の様子を伺いながら目を拭った。
(いつか必ず、どんな事があっても助けるから、待ってて……秋姉……)
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