373人が本棚に入れています
本棚に追加
聖は立ち上がり、窓辺に立って外を眺めていた。
「聖…。」
「なぁに?」
「僕らが最初に出会ったのはいつ?」
「ん~…君は記憶が戻っても覚えてないって言うかもしれないけれど、去年の今頃よ。
君は原田と仲良かったから。
私は原田とは小学校が一緒でね…。たまたま学校帰りに原田と一緒にいた君に出会ったわ。」
「その時、僕とはどんな会話した?」
「な~んにも。君、私の事嫌いって顔してたわ。
その次ね、図書室で会ったの。一人で勉強してて、わかんなくって行き詰まってたら、偶然向かいに座っていた君が教えてくれた。
顔しかめながら。」
聖は少し淋しそうに笑った。
「悔しかったから、その試験範囲のわからない所全部聞いてやったわ。」
「僕、あんまりいい奴じゃなかった?」
「わからないわ。
でも君にも聞かれたよ。
英語。私帰国子女だから。
小学校4年生から高校入学まではイギリスにいたの。」
「聖は小学校では隆と仲良かったの?」
「…いじめられてたわ。」
馨の顔つきが変わった。軽蔑する表情だ。
聖はそれを見て慌てて訂正した。
「いじめられてたって言っても毛虫持って追い掛けられるとか可愛いものよ。」
「聖は毛虫が恐いの?」
「その頃は泣くほど恐かったわ。原田も大っ嫌いだった。」
「今は?」
「…なんとも思わないけど。」
聖は、馨がどうしてそんな質問をするのか気になった。
しかし、そんな質問を投げ掛けて予想どおりの答えが返ってきてしまったら…。
そう思うと受け流す事しかできなかった。
「聖は森崎鈴花って知ってるか?」
「知ってるわ。君の彼女。」
「あいつは聖を知らないって言ってた。嘘だったのか?」
「…きっと私の存在は君にとって実質的な不利益になると思って伏せたんじゃないかな。」
「実質的な…不利益?」
「もちろんそんなのは彼女が決めるもんでも、私が決めるもんでもないけどね。」
「僕は……聖が…。」
馨が何かを言い掛けているのを察した聖は、馨が言おうとする言葉から逃げるようにかぶせて言う。
「ほら、えーと…今はそんなに考え込んだら逆効果だと思うわ。落ち着いて…ね?」
馨はふと、窓に目をやった。空が明るくなりだしていた。
.
最初のコメントを投稿しよう!