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聖もそれに気付いた。
「それじゃあ私は行くわ。」
「…まだ行くなって言ったら?」
「だめよ。人目についたら協力してくれた原田先生にも迷惑がかかる。」
「そうだね…。」
馨は寂しそうに窓を見た。
それを見た聖は後ろ髪を勢いよく引っ張られた気持ちになり、馨に近寄り手を握った。
今度は馨の体が小さく痙攣した。
「ごめんね…。」
「うん。平気だよ。」
「強がっちゃ駄目。君はいつもそうだったんだろうから。」
「……あぁ。」
「また今夜来るわ。」
「本当に?」
「うん…。それじゃあ、ね。」
だいぶ明るくなっていたので、聖は人目に付かないように気を配りながら病院を後にした。
聖がいなくなると、馨は胸が締め付けられて苦しかった。
たが、不思議な事にこんなに胸が苦しいのになんだか慣れているような気がした。
胸の痛みを辿ると、聖が浮かぶ。
聖が隣にいる想像を巡らす。
初めて触れた聖の手はほのかに温かかった。
それなのに、不意に触れられた瞬間体中に電流が走った。
聖がいる間はとても幸せだった。
その反面、聖がいつかどこかへ行ってしまうと思うと不安で切なかった。
馨のやり場のない想いは、薄れていく闇に溶けて虚しく消えていった。
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