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「D組の椎名君。中学のころから憧れていたの。」
D組…。原田のクラスだ。
「寡黙で冷静な人でね。
でも話したりした事もなくて遠くから見てただけなの。
それだけでよかったの。
彼女がいるの知っていたし。」
私には恋心っていまいちわからなかった。
だからこの時、どうして彼女がいる人を遠くで見てるだけで満足できるのか理解できなかった。
「でもね、偶然同じ高校に上がって余計気になっちゃったの。
それでね、1学期の期末テスト前かな。偶然会って、周りに誰もいなかったから思わず言っちゃったの。『好き』って。」
私は黙って聞いていた。
彼女も私を見ているわけじゃなくて、天井に向かって喋っている様だった。
「結果はダメだった。ていうか私の事知らなかったみたいだし。
でもそんな事はよかったの。
私は彼が幸せならよかったから。
でも告白したの、彼女にバレちゃったみたいで。
翌日トイレに連れていかれて…。
男の先輩が来て…個室にその人と閉じ込められちゃってね。」
秋野さんはガタガタ震えだした。
ようやく彼女が不登校になった事情が些細な事じゃないのがわかった。
「秋野さん!もういいよ。」
私はどうしたらいいかわからずに彼女の体を抱き締めた。
「あの人…森崎さんのお父さんは代議士なの。
この街では名士って奴。…だからこんな事明るみに出したって、もみ消された挙げ句に私は晒し者になるだけ…。」
「森崎さんって、まさか森崎鈴花…?」
「そうよ。」
「じゃあ椎名君ってあの眼鏡の子?」
「そう…。篠崎さんも彼女には気を付けてね…。……うっ。」
「どうかしたの?」
「なんでもないの。気持ち悪くなっちゃって…。」
「嫌な事思い出しちゃったもんね。ベッドに横になって休みなよ。」
私は彼女を寝かせ、布団をかけてあげた。
「今日の所は私は帰るわ。また秋野さんの気が向いた時に来るわ。」
私は立ち上がり、帰ろうとした。
「あ、篠崎さん…。」
「ん?」
「今の事ね、篠崎さんにしか言ってないの…。だから、もしもの時は………」
「え…?」
「ん、なんでもないわ。今日はお話聞いてくれてありがとう。」
「うん。またね。」
彼女は弱々しくだけど、笑顔を見せてくれた。
でも私は、このまま帰ってしまった事を死ぬほど後悔する事になる。
秋野さんは、翌日自殺したのだ。
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