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秋野さんは妊娠していたようだ。
妊娠3ヵ月。
トイレでの事もだいたい3ヵ月前。
あの時気持ち悪くなっていたのは、つわりだったのだ…。
前日に会っていた私も事情聴衆を受ける事になった。
秋野さんは「もしもの時は」って言い残していたから、洗い浚い警察に喋った。
しかし、何故か「勉強を苦に自殺」という事にされていて、森崎鈴花も平然と過ごしていた。
一週間たって少し騒ぎが鎮火しはじめた頃、私はやりきれなくて屋上に足を運んでいた。
「私が…気付いていれば…。」
「どーしたの?篠崎ちゃん。」
…よりによって一番会いたくない奴に会ってしまった。
「聞いてやるだけならできるぜ。」
誰が原田なんかに…。
でも、今は石にでも何でもいいから聞いてもらいたかった。
聞いてもらって、叱って欲しかった。
だから、原田に事のあらましを話した。
「私には何もできなかった。
少しは彼女を救えるかなって…内心では思ってたのに…。」
「お前は馬鹿か。」
「言われなくてもわかってるわ。」
「いや、わかってない。お前は話聞いて警察に言ってやったんだろ?たとえもみ消されたとしても、それだけでも彼女は随分救われたんじゃねーの?」
口はかなり悪いけど原田の言ってくれた事で私は楽になれた気がした。
「お前がそんなに気に病んでちゃー、彼女が逆に罪悪感を感じちまうだろーが。」
「ありがとう。」
私はどんな顔してたかな…?
きっと、泣き笑いみたいになってたに違いないわ。
不覚だったけれど、すっきりはした。
テスト勉強しなきゃ…そう思って図書室に行った。
一週間分遅れた。
まぁ、まだ高校1年の2学期の中間テストで悪い点取っても人生に影響があるわけじゃないけれど、出来る事はやらないと。
イギリスの両親を見返してやりたい。
意外にも、今回は学校の図書室をテスト勉強に利用してる生徒は少なかった。
学校の周りをマスコミが張り込んでいるのだから、皆早く帰りたいのも無理はない。
窓際の、居心地よさそうな席を見つけ、とりあえず数学を始めた。
窓が少し開いていて、入り込んでくる風が金木犀の香りを運んでくれる。
図書室の外は、金木犀が植わっているグラウンドだからだ。
こんなにすっきりした気分は、いつ以来だろう。
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