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その代わり、よく目が合うようになった。
そんな時の椎名君は普段より目が澄んでいて、表情もなんとなく柔らかかった。
その目に見られているだけで、私は心が落ち着く様だった。
同時に、少しだけ胸が締め付けられた。
彼の境遇を知ってしまったからだと思う。
夏休みが近くなった頃。
「聖、期末の順位張り出されてたのみた?」
朝海が嬉しそうに声かけてきた。
「見てないよ。」
「あんまり興味ないの?」
「だって上位20位まででしょ?人の見てもね~。」
「…まさか自分が毎回上位にいるの知らないの?」
「へ!?」
いつも、自分の点は気にしていたけれど順位までは考え事がなかった。
昔から順位と名が付くものは好きじゃなかった。
昔はかけっことかビリで原田に馬鹿にされていたから。
「だって私、聖の名前は去年から知ってた位よ。」
朝海に促され、貼り紙を見に行った。
十数人の人だかり越しに見た自分の順位は…1位だった。
「…すごいなぁ。」
「自分の事を他人事みたいに言っちゃう所が面白いわね。
あら、今回は椎名君が不調ね。
いつももっと上なのに。」
椎名君は…15位か。
教室に戻ろうとしたら、椎名君が立っていた。
目が合った。
椎名君は少し笑った。
「おめでとう」って言ってるような気がしたから、「ありがとう」の気持ちを込めて笑い返した。
夏休みが終わるとすぐに文化祭だった。
我がクラスの委員二人はノリが良くない割に他の生徒達は盛り上がってた。
たこ焼き屋をやる事になり、乗り気ではないものの、準備で指揮を取っていた。
夏休みに読んだ「金木犀の想い」を劇でやるなら、もう少し頑張れた気がした。
この日は店をやる場所で的屋みたいなテントを建てた。
時間が余っていたので、私はテントの下で材料の発注の確認をして、その他のみんなは看板描いたりしていた。
ふと、目眩がした。
体がふらつく感じがしたと思ったら、テントもふらふら揺れていた。
地震だ。
少し大きかった。後で聞いたら震度4くらいだったらしい。
揺れが治まって、周囲がざわついていた。その時、誰かが叫んだ。
「危ない!!」
上を見上げると、テントが崩れてきていた。
それ自体大きいものでもないが、鉄パイプも私を目がけて降ってきていた。
私は気を失った。
誰かが私を呼んでいた。
気付くと誰かに顔を叩かれていた。
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