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椎名君は放課後になっても教室に戻ってこなかった。
その代わり、森崎鈴花が私を呼びにきた。
「聖、ちょっと。」
森崎鈴花と、もう二人女子がいる。
穏やかな雰囲気ではない。
椎名君にあんな大怪我をさせてしまったのだから、半ば無理はないと思い、従う事にした。
どこに行くのかと思えば、屋上に通じる扉の前。
階段の踊り場になっている所だ。
ぼんやりしていたら、いきなり森崎鈴花に胸ぐらつかまれた。
「あんた最低ね。おおかた馨に媚びてその気にさせたんでしょ?」
何を言われるかと思えばそんな低俗な事か。
「私は媚びてなんかいない。
助けてくれたのは彼の正義感からでしょ。椎名君はそこらの男と違うのは、あなたが一番知ってるはずよ。」
「うるさい!あんたが馨をたぶらかしたんじゃない!!」
思いっきり頬をはたかれた。
痛みより、こんな女に叩かれた悔しさが勝った。
彼女に叩かれた倍の力を込めて叩き返した。
「鈴花っ!」
とりまきの女が森崎に駆け寄る。
「ちょっと篠崎さんに鈴花を殴る権利はないでしょう!?
人の男奪ったくせに!」
呆れて言葉も出ない。
あれは奪った内に入らないだろう。
「…別に誰にも他人を殴る権利なんてないでしょ。
私は彼をたぶらかしてたりなんてしてないし、彼は私を好きになったりはしない。」
「よく言うわね。この下衆女。」
話が噛み合っていない気がする。
森崎達はもう私が椎名君を盗った事を前提に話をしている。
本当に私が関係しているかはわからないが、椎名君に別れ話でもされたのだろうか…。
「椎名君に何か言われたの?」
「あんたに関係ないでしょ!?」
「万が一彼の心に変化があったとしても森崎さんが彼に隠れてギャーギャー騒ぐ事じゃないでしょ?
あなたは一度でも彼の本心を受けとめた事があるの?」
この台詞が決め手だったようだ。
ただ、森崎の心の痛みは私に対する危害となった。
彼女はまたギャーギャー喚き散らしながら突進してきた。
「きゃっ…!!」
私はそのまま、階段を真っ逆さとなった。
このまま下に頭を激突するのは見えていた。
一瞬、死を覚悟した。
前向きに考えれば、あの言葉で彼女が改心する事が出来たとしたら、椎名君は幸せになれるはず。
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