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秋野さんはそれを望んでいたし、私もまた…クラスメートとして。
落ちた。
そう思った時、何か温かいものに包まれた気がした。
私にはまだ朦朧としながらも意識があった。
誰かが私を抱き締めながら倒れていた。
「聖!!」
遠くで朝海の声がした。
「篠崎!!馨!!」
原田の声。
…馨ってまさか。
私は誰かの腕の中でゆっくり起き上がった。
その腕は、だらりと落ちた。
―椎名君だった。
「椎名君!?椎名君!!」
頭に包帯を巻いた彼は、私の声に答えてくれない…。
「篠崎!救急車呼ぶぞ!馨は頭を打っていたから触るな!」
私は呆然としていた。
「原田…椎名君が死んじゃったら、どうしよう…。」
「大丈夫…俺の伯父さんが優秀な脳外科医だ。」
朝海は震えていた私をきつく抱き締めてくれた。
周りがどんどん騒がしくなるのをよそに、私はその場から動けなかった。
原田と朝海はそんな私の側から離れないでいてくれた。
一方、森崎は泣き叫びながらちゃっかり救急車にも乗り込んだ。
彼はどうして…無茶はしないでって言ったのに。
私はただ、彼の無事を祈るばかりだった。
夏休みに買った短篇に出てきた「金木犀の精霊」のように、消えてしまわないようにと。
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