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そして少年は色々と検査を受ける事になった。
ふらつく体のまま、脳波やらCTスキャンやら、頭に関するありとあらゆる検査を受けて、中年の男女や制服の少女が待つ病室へ戻った。
そしてまたしばらくしたら、白衣を着た男からの質問攻めにあう。
今度は先程に比べ、かなり具体的な質問だ。
白衣を着た男は質問攻めを終えて、少年を含めその場にいた全員に結果を報告した。
どうやら先程のありとあらゆる検査では異常が見られなかったらしい。
質問攻めの中で、文字とか色や物の名前だとか、少年の年令程度の勉強の内容は理解できていた事が判明した。
少年は自分自身に関連する事や、周囲の人間に関する記憶がすっぽり抜け落ちていた。
白衣を着た男は、精神的な事が原因かもしれませんと、曖昧な結論を述べた。
原因不明ならそう言えばいいじゃないか。
少年はそう考えていた。
「馨、本当に私の事忘れちゃったの…?」
少女が詰め寄る。
「馨、他に覚えている事はないのか?」
中年の男も訊ねる。
少年は、その質問でふと夢の中の少女を思い出した。
「聖…。」
中年の女と制服の少女の表情が少し固まった。
「聖とは誰なんだろう…。顔と名前だけなんか解るんだけど。」
「さぁね…。」
「夢を見ていただけじゃない?」
少年の周囲にいた人たちは口々に言った。
夢に出てきた少女の事ははっきり覚えている。
髪は背中くらいまでのストレートヘア。
あどけない中にも強い光を孕んだ瞳。
どちらかと言えば童顔だが、体つきはスラリとしている。
女性の中では背は高い方というわけではなさそうだ。
彼女が誰なのかわからない。
少年の空想の人物かもしれない。
だが少年は、その少女が「聖」という名を持つ事を知っている。
それに、あの甘い香り。
そして「馨」が自分を指す固有名詞であると認識した少年は、色々と説明を受ける事になる。
本名は、椎名馨。17歳で県内の公立高校の2年生らしい。
白衣を着た男は、馨の主治医で原田というらしい。
白髪混じりの中年の男性・椎名卓と、パーマがかかった髪のふっくらした中年の女性・椎名佳子は夫婦で、馨の両親との事だ。
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