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馨が病院に担ぎ込まれた翌日。
聖と朝海と隆司は放課後、屋上に集まっていた。
「うまい具合に俺の伯父さんが主治医になれたよ。
俺の親戚だっていう事もバレてない。」
「どうしてバレちゃいけないの?」
朝海が聞いた。隆司は言いづらそうに口を開いた。
「この際だから、隠し事はなしだ。
実は森崎の奴、馨の両親に事の元凶は篠崎だと説明していたらしい。
篠崎が馨にしつこく交際を迫って、そのもつれで今回の事故…ってね。」
朝海は歯を食い縛りながら、ぼんやり話を聞く聖に噛み付いた。
「聖…悔しくないの!?」
「そんな事はどうだっていい。私は椎名君さえ無事なら…。」
「馨は…まだ目を覚まさない様だ。
なぁ、篠崎。あの時森崎に何言われた?」
聖はうつろな口調で、屋上の出入口の前での出来事を話した。
「でもわからない…椎名君はどうして私を助けに来てくれたのかな…?」
隆司と朝海は目を見合わせた。
「ま、今日はこれから女と会うから。じゃあな。」
隆司は埃を払い立ち去ろうとした。
聖がぼそっと口を開いた。
「…最低ね。親友の一大事に。今日は赤い車の女?」
「んにゃ、白い車の女。」
「どこへでも行けば?」
「そうするよ。」
朝海は困り果てて聖をなだめようとした。
「桐生、いいよ。」
そう言い放って隆司は出ていった。
階段を下りながら、思い出していた。
隆司にとって中学時代の女遊びは、ただ淋しさを紛らわす為だけのもの。
ただ、そのせいでもめ事が絶えなかった。
だから同じ中学の奴が来ないような、地元から少し離れた偏差値の高い高校を受験した。
それなのに聖がいた。
初めて聖に話し掛けられた時、隆司は表には出さなかったが、まさに青天の霹靂も同然の衝撃だった。
私の事覚えてるかって…。
隆司は一日たりとも聖を忘れた事はなかった。
聖を忘れられたのは、他の女を抱いていた時だけだ。
聖は昔、弱虫ですぐ泣く子だった。
隆司は聖をいじめたりからかったりして、いつも聖にかまっていた。
3年半ぶりに再会した聖はとても綺麗になっていた。
ただ隆司は、万が一今の自分自身と聖が一緒になったとすれば、過去の女関係なり様々な要因で聖はたくさん傷付くだろう。
彼女は純粋すぎるからだ。
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