第一話

4/24
前へ
/288ページ
次へ
真顔で『我等が主』なんて言う奴、オレの知り合いにいない。 …いたら困る。 しかし青年は先程の笑顔を崩さず、さらりと言ってのけた。 「俺があなたを間違える訳ありませんよ。我等が主」 「いや、絶対人違いです」 「いえ、あなたですよ…倉原宸夜(クラハラシンヤ) 様」 不意に自分の名前を呼ばれ、驚いて固まってしまった。 青年は表情を引き締めて、手を差し出した。 「さ、行きましょう。これからあなたには、世界征服をしてもらわなければなりませんから」 オレは―――迷う事なく逃げた。 絶対、頭おかしいって。 自分の名前を知られているのも、気持ち悪い。 オレは脇目も振らず走って、ものの三分で自宅に着いた。 軽く自己ベスト記録だ。 庭付き一戸建ての普通の家。 蹴破らんばかりに玄関の扉を開けて、すぐ後ろ手に鍵を掛ける。 そしてそのまま扉に寄り掛かり、乱れた息と心を整える。 きっと同姓同名の似た人なんだ。世の中、よくある。絶対そうだ。 ちょっと現実逃避に近い気がするが、まぁいい。 玄関からなかなか上がって来ないオレを不思議に思ったのか、母さんがリビングから顔を出した。
/288ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11405人が本棚に入れています
本棚に追加