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真顔で『我等が主』なんて言う奴、オレの知り合いにいない。
…いたら困る。
しかし青年は先程の笑顔を崩さず、さらりと言ってのけた。
「俺があなたを間違える訳ありませんよ。我等が主」
「いや、絶対人違いです」
「いえ、あなたですよ…倉原宸夜(クラハラシンヤ) 様」
不意に自分の名前を呼ばれ、驚いて固まってしまった。
青年は表情を引き締めて、手を差し出した。
「さ、行きましょう。これからあなたには、世界征服をしてもらわなければなりませんから」
オレは―――迷う事なく逃げた。
絶対、頭おかしいって。
自分の名前を知られているのも、気持ち悪い。
オレは脇目も振らず走って、ものの三分で自宅に着いた。
軽く自己ベスト記録だ。
庭付き一戸建ての普通の家。
蹴破らんばかりに玄関の扉を開けて、すぐ後ろ手に鍵を掛ける。
そしてそのまま扉に寄り掛かり、乱れた息と心を整える。
きっと同姓同名の似た人なんだ。世の中、よくある。絶対そうだ。
ちょっと現実逃避に近い気がするが、まぁいい。
玄関からなかなか上がって来ないオレを不思議に思ったのか、母さんがリビングから顔を出した。
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