桜散るその下で

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 クレハからの連絡を受け、撮影場所の詳細を聞くと、すぐに調査範囲を絞り込ませ、リスクは承知で、撮影場所のある路線を利用する乗客へ、しらみ潰しに聞き込みにあたらせた。  時間帯はタクシー運転手の証言から、午前中のラッシュ後数時間に絞った。  だが、日が経ち過ぎているせいか、はかばかしい成果は中々上がらない。  四日。寝もやらず、仕事に没頭することで気を紛らわせながら待った。  疲労と焦燥で、いい加減堪忍袋の緒が切れそうになった頃、ようようその報告は届いた。  後一日、この報告が遅かったら、エージェント全員の首を撫で斬りにしていたわ。  私の内心を知ってか知らずか、吉報をもたらしたエージェントは、正した背筋が緊張で強張っていた。  その報告によると、静流と思われる人物と乗り合わせた乗客が、見つかったと言う。  その乗客は、撮影場所のある駅の二つ手前で降りた為、その人物の行き先までは知らなかったが、今時珍しい大きな革のトランクを持っていたので、特に印象に残ったらしい。  静流に間違いない。あんなに目立つトランク、そうはないもの。  その乗客はそれ以上のことは覚えていなかったが、連れが重要な証言をした。  隣に座った老女に行き先を尋ねられ、桜を見に行くと答えていたと言うのだ。  確信を得た私は、すぐにでも静流の下へと向かうつもりだった。
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