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想いをそのまま言葉に出来るほど、私は素直でも初心でもなかった。
震える唇を噛み締め、無言で睨み上げる私の瞳を見つめ、静流はどこか悲しげに、困惑した様子で視線を揺らす。
私の想いなど、口に出さずとも、静流には伝わっているはずだった。
「……私には、社長のプライベートに口を挟む権利はありません」
静流が、いつもの冷静な表情で告げた。
――淡々と。
刹那、私の中で全てが凍りついた。
そして、ぷっつりと何かが切れた。
「――消えて!!」
振り上げた掌が、ぱしぃっと乾いた音を響かせ、静流の頬を打ち据えていた。
静流の手からコップが滑り落ち、零れた冷たい水が彼女のパンツとラグを濡らす。
「璃子さ――」
「出て行ってっ。二度と私の前に顔を出さないで!!」
衝撃に耐えるように静流の目が見開かれ、私は自分の暴言に気づいた。
ヒステリックに叫んだ自分の声に唖然とし、きつく唇を噛み締める。
しかし謝罪の言葉が喉の奥に絡みつき、出て来ない。数瞬の沈黙――
一分にも満たないその沈黙が、ずっしりと重くのしかかる。
押し殺した感情が軋み、息をすることさえ躊躇させた。
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