桜散るその下で

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   翌日。静流はいつまで経っても社に姿を現さず、携帯電話も自宅の電話も繋がらなかった。 「榊原(さかきばら)さんが無断欠勤なんて、初めてじゃない?」 「何かあったのかしら。心配よね」 「社長も機嫌悪いし、誰か様子を見に行った方がよくない?」  秘書室も常になく私語が飛び交い、女だけの職場なだけに(かしま)しかった。  仕事を力技で片づけ、半ば無理矢理作った遅い昼休み。時計の針は午後三時を回っている。  何度かけても自宅は留守番電話、携帯は電源が切られている。 「社長。榊原がご心配なら、誰か様子を見に行かせましょうか?」  食事に立とうとしない私を見かね、第二秘書の鮎川が神経質に細い眉を寄せ、ワインレッドの縁の眼鏡を押し上げた。  朝から時計と電話ばかりを睨みつける私に、いささかうんざりしているらしい。 「社長が直接、出向かれたらいかがでしょう。きっとその方が、お心が安らぎますわ」  同じく第二秘書の加納はお雛様のような顔を緩め、古株のよしみでのんびりと微笑む。自ら動かなければ、私が納得しないと彼女は分かっている。 「加納、無責任なことを言うものじゃない」  鮎川は(たしな)めはしたものの、止める気はなさそうだ。  仕事にきりがついた今の内に、厄介事は始末しろということらしい。 「いいわ。マンションに行ってくる」  ずっとそわそわと落ち着かなかった腰を上げ、私は足早に社を後にした。
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