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運転手を急かしながらタクシーを飛ばすこと、十五分。社員寮にほど近い、住宅街に建つマンションの前で、私はタクシーを降りた。
建売住宅や昔ながらの一軒家が軒を連ねるこの辺りは、後小一時間もすれば、学校帰りの子供達で賑やかになる。
十分も歩けば駅前に繋がる商店街があるし、近くにはコンビニもあり、利便が良く活気のある地区だ。
それでも春先の午後はのどかで、どこかのんびりと間延びし気怠げだった。
小綺麗なマンションは、淡いクリーム色の外壁を塗り替えたばかりなのか、やけにその色が生々しい。
築二十一年。けして新しくはないが、住み心地はいいのだと、引っ越す気はないのかと訊いた私に、静流は笑っていた。
五階までエレベーターで上がり、外廊下を進み、角部屋の前で止まる。
表札を確かめるまでもなく、そこが通い慣れた静流の自宅だった。
「静流。いないの?」
チャイムを鳴らすが応答はなく、部屋の中はしんと静まり返っている。
もう一度チャイムを鳴らし様子を窺うが、反応はない。
「入るわよ」
合鍵で鍵を開け、なぜか騒ぐ胸を鎮めようとしながら扉を開けた。
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