桜散るその下で

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   一晩。静流が出て行った、寝室の扉を見つめて過ごした。  最後に見せたあの感情の消え失せた、凍りついたような無表情が何度もよぎる。  引き止めればよかったと後悔し、なぜこんなに簡単に消えてしまったのかと静流に(いきどお)る。  その繰り返しだった。  まんじりともせず、浮き沈みする感情の波に揺さぶられながら、時計が時を刻む音だけを虚しく聞いていた。 「静流……静流っ」  何度その名を呟いたか分からない。まるで迷子のように、心許(こころもと)なかった。  こんなに私は弱かったの?  たったひとりの人間を失ったくらいで、こんなにも崩れてしまうなど信じられなかった。  だが、それだけ失ったものは大きいのだ。  大事な片腕。唯一心を預けることの出来た存在。かけ替えのない者。そして……  今更気づくなんて……やっぱり馬鹿は私よ。  私は静流を愛している。他の誰でもなく、静流と愛し合い支え合い、共に年を重ねたかったのだ。  もっと早く気づいていれば、何か違う結果が得られたのだろうか。全ては遅すぎたのだろうか。  自問自答を繰り返し、暗澹(あんたん)たる現実に打ちのめされる。  一線を引き退いた静流の言葉が、耳にこびりつき、どうしても忘れられなかった。
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