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心地好いはずの車の震動は、しかし良い夢を見せてはくれなかった。
別れたばかりの女が何度となく現れては、左手の薬指にはめた指輪を見せつけ、見知らぬ男の腕を取る。
媚びと甘えを垂れ流したその顔は、見たこともないほど安心しきっていた。
「やっぱり男の人がいいわ。いろんな不安に、びくびく怯えなくていいんだもの」
どれだけ世間が同性愛者に寛容になったと言っても、同性カップルへの社会的保障は皆無に等しく、また差別や偏見もなくならない。
興味本位で、同性と関係を持つ者も決して少なくはない。それが悪いと一概には言えずとも、傷つく同性愛者は多い。
「だからノンケは嫌いよ。どんなに愛し合っても、結局男を選ぶのよねっ」
私の何が男に劣ると言うの?
ただ、男に生まれた異性愛者というだけで彼等は選ばれ、一方で私は、女だからと切り捨てられる。
この不条理は何?
女帝と呼ばれるほどの地位も名誉も築いた。余程の浪費家でもない限り、一緒に充分な生活を送れる自信はある。
肌を合わせ、愛し合う指先ひとつ取っても、並の男など足元にも及ばないほど繊細で緻密だ。
息苦しいほどの束縛はせず、忙しい仕事の合間を縫っては会える時間を作る。
己の限界を知り、自分を磨く努力も怠らない。
それなのに皆、離れて行く。
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