桜散るその下で

6/55
前へ
/251ページ
次へ
 遊びなら、いくらでも笑って別れられる。  傷つけ合うこともなく、深みにはまることもない。けれどそれだけでは、満たされないのだ。  寄り添い支え合い、共に愛を()み年を取る。  そんな相手が堪らなく欲しい。いつまでも孤独で居られるほど、私は強くはない。 「あなたは、孤高の女戦士みたいだ」 「璃子の世界に、私は必要ないでしょう?」  別れた女の顔が、浮かんでは消える。  責めるような、諦めたような、哀しげな顔がいくつもいくつも……  泣いて(すが)りついて、引き止めればよかったっていうの? そんなこと出来やしないわ。  十年かけ(まと)った鎧は堅固で(かたく)なで、簡単に泣くことなど許さない。数年前、母が亡くなった時ですら、泣けなかった。  だから恋人と決別する度、浴びるように酒を飲む。(すさ)んであたり散らす。  その後始末やフォローをするのは、いつも静流だった。  静流を拾い、側に置くようになってから、六年。嫌な顔ひとつしたことがなく、万事そつなくこなす。  常に静かに私に従い、第一秘書としての有能さも、社内で一目置かれている。  長身痩躯と涼しげな美貌に強靭な意志を(ひそ)ませ、決して腹の内を(さら)さない。完璧過ぎるほどに……
/251ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1098人が本棚に入れています
本棚に追加