桜散るその下で

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「なんで、ノンケなんか好きになったのかしら。バイもだめ。結局男に盗られるものっ」  ベッドに崩れるように倒れ込み、己の愚行を呪う。やつあたりで拳を叩き込むが、低反発の枕は、いとも容易(たやす)く衝撃を吸収した。  手応えのなさに苛立ちが倍加し、今度は枕を掴み壁に投げつける。  一瞬ぺとりと淡い萌葱(もえぎ)色の壁に張りついた白い枕は、すぐに頼りない音を立て、ラグの上に落ちた。 「ビアンだけ残して滅びればいいのよっ。特に無知蒙昧(むちもうまい)の男なんか!」  どれだけ罵詈雑言をまくし立てた所で、男も異性愛者も滅びはしない。この胸の悪感情も、一片たりとも減ってくれはしない。  そんなこと、分かっているわよ!!  理屈ではないのだ。男尊女卑の(いま)わしい歴史に報いたいわけでも、恋人を寝盗られた腹いせでもない。無能であればあるほど、男という存在が嫌いなのだ。  顔を見るだけで寒けがするほどに。 「落ち着いて……水をお持ちしました」  静流がそっと水の満ちたコップを差し出す。指先に触れたコップは、水の冷気でしっとりと汗をかいていた。  静流は黙って私を見つめている。いつもと同じように、包み込むような涼しげな瞳で……
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