桜散るその下で

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 静かに冴え、掴み所があるのかないのか分からない。ただ淡々と役目をこなし、静流はいつも側に居る。  だけど肝心なことは何も言わない。返って来ない。  どんなに感情をぶつけても、全て受け止め、そのまま飲み込んでしまう。まるであの枕のように。  それは、とても優しいけれど酷く残酷だ。  ぶつけた分と同じだけとは言わない。その半分でいい。三分の一でいいから想いを返して欲しい。  じゃなきゃ、人形を相手にしているのと、変わらないじゃない!  常に穏やかな静流の瞳。 「どうして……」  無性に腹が立った。  毎度毎度、恋に敗れてはひとりで空騒ぎする自分が馬鹿みたいで……  その度に後始末をさせられながら、文句ひとつ言わず、「もうやめろ」とも言わない。  そのわきまえ方や距離感が好ましかったはずなのに、今はただ腹立たしく憎らしい。 「どうして何も言わないのよっ! いつもいつも、あなたには醜態を晒してるのに、どうして何も言わないの!?」  「もういい加減に控えろ」って言ったっていいじゃない。そういう口を出せるのは、あなただけなのよ。  六年。その月日をかけて私はあなたに心を預けたわ。  仕事も私事もあなたにだけ、干渉を許したのよ。どうしてそれが分からないの!?
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