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「覚悟は出来たか?」
男は少年に尋ねた。
山の中の小さな寺の境内、その中にある一際大きな護神木。
その木に寄り掛かるまだ15、6歳程の少年、鬼良(キラ)は星を見上げながら言った。
「なぁ。もし、俺がまた眼を醒ましたら、星はまた見えるのかね」
男も同じ様に空を見上げる。
「見えようぞ。星は消えぬ。星は、いつまでも我々の頭上にいてくれる」
鬼良は眼を閉じ、顔を伏せる。
「俺は封印してくれる相手がお前で良かったよ」
「…そう言って貰えるとはな」
鬼良は小さく笑った。
「意外か?」
男もつられて小さく笑う。
「そんなことは…、いや。正直、私はお前にどんな目に遭わされるか、と心配していた」
男はフウ、と溜め息をつく。
「鬼、というだけで天皇や大臣はお前達を蔑む。この平安の世に、鬼は厄災の種でしかない」
鬼良は笑みを崩さない。
「実際、そういう奴らがたくさんいたからな。鬼を嫌うのも無理ないさ。逆に俺みたいな奴が異常なのさ」
鬼らしくないからな、と付け足した。
「そうだな。私が思うに、お前は孔子に似ている」
その言葉に鬼良は目を丸くする。
「いや、今のは忘れてくれ」
男は首を振る。
「しかし、お前は今まで沢山の人々を助けてきた。麓の村人はお前のことをなんと呼んでいるか知っているか?」
鬼良は首を振り、「興味ないな」といって、背を預けていた木から離れる。
「さてと、俺はそろそろ寝るとしようかな」
男は淋しげに懐から札を五枚取り出し、木の周りに正五角形になるように置いてゆく。
「さらばだ」
手を合わせ念ずる。
木を中心に星が刻まれ、鬼良の体が幹の中に入ってゆく
鬼良はゆっくりと目を閉じた。
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