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二人はお出ししたカクテルで、軽く『乾杯』をした。
どちらも、満足そうな顔だ。
老人が私に質問してきた.....
『カクテルが大変お上手ですな。どこで修行をしたのですか?』
いきなりの質問に驚いたが私は答えた。
『ほとんど自己流ですが、基本は死んだ父から教わりました。父は五年前に病気で亡くなりましたが.....』
老人は納得したのか、続けてこう言ってきた。
『貴方のお父さんは素晴らしいバーテンダーでしたよ。お父さんが若い頃は良く呑みに寄らしてもらったものです。』
どうやら、父の若い頃のお客様の様である。
『私も父のバーテンダーとしての姿勢などは尊敬しております。勿論、父親としてもですが。』
そう言うと老人が一言.....
『“蛙の子は蛙”ですね。』
私は嬉しかった、父がやってきた事は間違っていなかった。
そして、こんなにもお客様に愛された“バーテンダー”だなんて羨ましかった。
ある意味『嫉妬』にも似たような感情だった。
すると、スーツ姿の男性が
『会長、そろそろお時間です。』
老人は残りのジンフィズを全て飲み干しこう言った。
『わしも長い間、病気しておりましてね、風の噂でこの店が息子さんが引き継いだと聞いて用事がてら寄らしてもらいました。』
そう言い残して二人はドアに向かった。
私はお見送りしていつもの様に
『有り難う御座いました。またお待ちしております。父も喜んでいると思います。』
軽く会釈をして老人が先に出た、最後にスーツ姿の男性が
『あの方は大手家電メーカーの会長です。このお店の事を良く話していらっしゃいました。またお邪魔させて頂きます。』
そう言い残してお帰りになられた。
私は父のバーテンダー姿を思い出した。
まだまだオヤジには勝てないな…
明日からもっと頑張ろう。
そして、オヤジの好きなウイスキーを呑みながら夜は更けていった.....
おしまい
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