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俺は人のいない路地へと移動し、電話をかけた。
相手はもちろん、あの女だ。
「終わったぞ」
仮面をはずし、手袋を脱ぎながら話す。
この仮面、動くと案外暑いのだ。
『ありがとうございました』
極めて事務的な口調で続ける。
『現在が確認している《魔蟲》はいません。もう、帰っていただいて結構です』
「そうか」
携帯を切ろうとした俺に、電話の女は思い出したように声をかけてきた。
『あぁ、それから』
「まだあるのか?」
正直言って面倒くさかったが、お構いなしに女は告げた。
『明日からはコンビを組んでもらいます』
「コンビ?」
俺は耳を疑った。
『えぇ、そうです。実に特殊な個体で、《咎人》になったばかりですから、丁重にお願いします』
まるで、割れ物の商品の扱いを教えるように、実に淡々と告げる。
『手配はすんでいますので』
「拒否権は?」
『《本部》の決定事項です。拒否権はありません』
「そうか」
ある訳ないとは思っていたが、きっぱり言われると少し辛い。
携帯をしまう俺の中には、期待が半分、疑問が半分生まれていた。
なぜ、コンビなのか。
特殊とはいったい何なのか。
だが、考えても明日にはわかることだと自分に言い訳をして路地を後にした。
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