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男は戦慄した。
視線の先に相対する琥珀の髪の少年に。
相手が圧倒的に強いから、自分ではかなわないから。そんな理由ではない。
ただ、男が恐怖したのは少年の表情だった。
釣り上がった口角。覗く白い歯。
少年の顔には、この殺し合いの場には酷く場違いな喜色、それがはっきりと表れていた。
しかも男には、その笑いが余裕から来るものでも、諦めから来るものでもないことが分かる。
しかし、その真意は分からない。
戸惑いと困惑の中、男には少年がこちらに駆け出して来るのが見えた。
少年は狂喜した。
敵を殺せと魂が震える。
あの男が自らが必ずこの手で殺す、そう誓い四年間探し求めた相手だと知ったゆえに。
そしてその誓いが果たされるのも後僅か。高ぶる気持ちは抑え切れず、思わず顔が綻んでしまう。
あの男はそんな自分を見て、あんな間抜けな顔をしているのだろうか。
そんなことを思い、少年は自分の手におさまる黒光りする長剣の柄を眺め、一振りして返り血を払うと駆け出した。
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