序章 哀しい笑い

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 少年はそれを見つめる。  もうすぐ、自分の心と体は喜びに震えるだろう。ついに誓いは果たされたのだから。  必死で口元を釣り上げようとしながら思う。  しかし少年には喜びではなく、疑問がわいた。  塵や屑のようになった仇の男を前に、なぜか顔が氷になったように感じる。  先程まであれほど自然に出た笑い顔がまったく浮かばない。    どうして笑えない?  そしてもう一度少年は驚愕した。  頭の奥からジンと溢れそうになって、瞼の間から滲み出て、頬をつたって床を濡らすモノがある。 止められない。     コレハナンダ?  もはや声も出なかった。意味の分からない感情に自分が自分でなくなるような気がする。  そしてからっぽになった心を締めつける何か。  それは決して満足感や達成感や歓喜ではない。  猛烈な喪失感と虚しさと哀しさ。  復讐の完遂は皮肉にも人から光を奪う。 「あ、ああぁぁーー……」  生きる意味を失った少年は、膝を折り、その場に崩れ落ちる。  激しい慟哭の響きが止むことは無かった。
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