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(――何処だよ、ここ…)
何もない、微かな光さえもない真っ暗な暗闇。フランシスは1人佇んでいた。この闇には限界なんて無いように思えた。そんな無限に広がる真っ黒な世界。
(ああ、ただの夢か)
フランシスは気付く。何故なら、現実では今は海峡を挟んだ隣国と長きに渡る戦争が終わり、久しぶりの安眠中のはずなのだ。
(しっかし嫌な夢だな)
とひとりごちる。
さっきまで騒いでいた戦仲間も、一緒に馬鹿やる友人も、愛馬も、いつもいるはずの愛鳥もいない空間はとても寂しい。もしかしたらさっきまでのは夢で、皆消えてしまったのではないか?そう思うと同時に、自分も消えてしまうのでは、という恐怖が全身を駆け巡る。
(…嫌だ、怖い、消えたくないっ…誰か、…誰か返事をしてくれ!)
暗闇にいくら叫んでも反応はない。帰って来るのは静寂のみ。
(誰か!……、)
―――!、
1人の少女の名を呼ぼうとして思い留まる。ぐ、と手を握りしめ、震える体を押さえ込む。彼女は死んだのだ。
『――祖国、私は貴方のために戦っているのです。』
まだ20にも満たない彼女は両親の教えに背き、禁じられていた男装をし戦に参加した。
『貴方を守ってみせます。』
『この戦争が終わったら、私は元の田舎娘にもどります。ですからそれまでは…貴方の傍にいさせてください。』
『祖国…私はこの国が大好きです。』
『…フランシス…私はこの国に生まれて、貴方に出会えて、』
『しあわせでした。』
ありがとう、
そう笑った彼女はとても美しかった。思い出された微笑みに今まで暗かった周りが明るくなっていく。
(暖かい…。あぁ、そういう事か)
(これは俺の心の…闇…)
あの日、愛している大切な人を失った日。あの時から引きずっていた傷が、心が癒えていく。
(君は、居なくなっても俺を守ってくれるんだな。)
愛してる、さようなら
(また、どこかで)
Fin.
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