29人が本棚に入れています
本棚に追加
「…ごめんなさい、ローデリヒさん…」
そう呟いた私の元支配領だった青年は、茶色の特徴的なくるんとした髪の毛をゆらし、いつもと違う男らしい顔で私の首に鋭く光る剣先を突き付けた。ひやり、と微かな刃物の無機質な冷たさで、体の芯まで冷えてしまいそうだ。
「俺は、」
この張り詰めた緊張を先に破ったのはフェリシアーノだった。声は強い決意が感じられるほど、はっきりとしていた。ああ、彼はもう立派な大人なんだな、と場違いな考えが頭をよぎる。
「…俺は、一つの国になりたい…、いや、一つの国になります。今はまだ少し力不足だけど…あの人を守れるような、立派な国に。」
あの人を守れるような立派な国。
フェリシアーノは盲目だった。身体的にではない。恋に、だ。彼は昔から彼の兄の様な存在のフランシスを恋い慕っていた。だからここで言うあの人、というのは今彼と同盟を結んで、その手助けをしている、昔から私の敵であるあの美丈夫の事だろう。
何も言わない私の沈黙を了承と受け取ったのか、フェリシアーノはまだ幼さの残る顔で微笑んだ。だが、首元の剣は離すどころか強く押し付けられ、空気を吸い込む事が難しくなる。
「だから、邪魔しないでローデリヒさん。俺のフランシス兄ちゃんに手を出そうだなんて考えないでね。」
そう言い終えると同時に剣が元の鞘に戻された。ほ、としたのもつかの間にドアがノックされ扉が開いた。
最初のコメントを投稿しよう!