*第3章*

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逃げ込むようにキッチンへ入り、チョコレートや卵を用意して、さっそく調理を始めた。 ひなたは無意識かもしれないけど、私は振り回されっぱなしだ。 ・・・うぅ。 眉間にしわを寄せながら、ボールに材料を入れて、愛用の泡だて器で混ぜた。 ふき抜けの構造になっているキッチンから、気持ち良さそうに日向ぼっこを続けるひなたの背中が見えた。 夏真っ盛りなのに、変なの。 いや、もっと変なのは私かもしれない。 どこの誰かも分からないようなひなたを、今では当たり前のように家へ上げているんだから。 私も大した変人だー。 もんもんと考え事をしていたが、手元のボールに思考回路を戻すと、そんな考え事は見事になくなった。 料理をしている時は、何にも考えなくなる都合のいい私の頭に感謝。 「・・・出来た」 40分ほど経って、簡単なおやつが出来た。 後は、粉砂糖をふって・・・と。 練習がてら、生クリームでデコレーションすればっ。 「かんせーい」 小さな声で、自分を褒め称えるように言い、手を小さく叩いた。 切り分けてお皿に盛り付けて、リビングのテーブルへと運ぶ途中、ひなたの方に目をやると、背中がゆらゆらと揺れていた。 テーブルの完成したおやつを置いて、そっとひなたに近付き、顔を覗きこむと、案の定、ひなたは寝ていた。 背もたれも無いのに、座ったまま寝られるなんて。 ひなたもやるな、なんて。 立ったまま寝たことのある私が、エラそうには言えないけれど。 「寝るときも、眼鏡は外さない  のかなぁ・・・」 ぽつん、と呟いて。 綺麗な寝顔を間近で見つめた。 近くで見れば見るほど、すごく美しい顔立ち。 ひなたは男だけど、憧れちゃうよ。  
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