*第3章*

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「・・・ごちそうさま」 にっこりと笑って、ひなたは手を合わせた。 口に合ったようだ。 「・・・ひなたは、寝る時に眼鏡  は外さないんですか?」 人差し指と中指で眼鏡を押し上げるひなたに、頬杖をつきながら尋ねた。 ひなたは一瞬、きょとんとした表情になった。 また、茶色の眼鏡が太陽の光を反射して、きらりと光る。 「・・・外さない」 「どうしてですか?  邪魔なんじゃないですか?」 私は眼鏡をかけないから、予想でしかないけど。 「・・・邪魔じゃない」 「そうなんですか・・・」 急に真剣な顔をして、私を見てきた。 何故だか、気まずくなってしまって、私はテーブルに視線を落とした。 目の前においている、複雑な柄の皿の模様を、覚えてしまいそうだ。 視線を少しだけ上げて、真剣な眼差しでなくなったひなたを密かに見つめた。 ・・・あ、あくびした。 まだ眠いのかなぁ。 ・・・眼鏡を外すか、外さないかの話になって、急に真剣な顔になったなぁ。 そんなに、外したくないのかな。 外したって。 美形には、違いないのに。 「・・・あの。  じゃあー、ちょっとだけ。  1回だけ、眼鏡。  外してくれませんか?」 「・・・どうして?」 しぶとく眼鏡にこだわる私に、ひなたがまた先程のような顔をする。 「私の通う学校に、ひなたによ  く似た顔の先輩がいるんです  よ。  だから、ちょっと興味  が・・・」 「・・・眼鏡だけは、だめ」 少し迷う素振りを見せながらも、ひなたは断った。 そして、真っ直ぐに私を見つめると長い手を伸ばして、顎のラインを撫でた。 「・・・じゃあ、しぃは。  日に日に増えてる、この怪我  の意味、教えてくれる?」 毎度の事だけど、突然、艶っぽい声になるひなた。 その声を聞いてしまうと、このなんでもない手の動きに、ドキっとしてしまうから不思議だ。  
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