*第3章*

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転んだまま、去って行く華奢なエリカの背中を見つめた。 ものすごい、瑞貴先輩を想ってるんだなぁ、なんて。 まるで、すばらしい事のように思うのは、突き飛ばされて転んで頭を打ったせいだ、きっと。 ポツ   ポツ 「・・・」 雨がしとしとと降り始めた。 最悪のタイミングだ。 転ばされたせいで、持っていた荷物は投げ出されて、手の届くところに無いし。 当然、かさにも手は届かない。 歩けばいい話なんだけど。 なぜだか、そういう気にならない。 無気力状態だ。 『濡れたい気分』。 ・・・と、まぁ。 そういう事にしておこう。 「・・・冷たい・・・」 「・・・当たり前だよ」 あるはずの無い返事が返ってきて、驚いた瞬間に雨がかからなくなった。 上を見上げると、透明のビニール傘が私の上でさされていた。 「何かあった?」 透明な世界の向こうに、瑞貴先輩が見えた。 「あ・・・」 優しい瞳で、私に尋ねてくる。 どうしよう。 私、今。 すごく泣きそうだ。 「・・・な、何にも無いんです!  ぼーっと歩いてたら、転んで  しまって、ですね・・・。  ・・・だから・・・」 「・・・だから?」 「・・・」 言葉が続かない。 ああ。 笑わないと、目が合わせられなくて、嘘がばれてしまう。 だけど、目を細めたら、涙が溢れてしまいそう。 「・・・だから、何でも無いんで  す。  瑞貴先輩、私はもう濡れてし  まってるんで、自分の上に傘  を差してください。  瑞貴先輩が、濡れちゃってま  すよ」 「いいよ」 私が俯きながら言うけど、傘は私の上に差されたままだった。  
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