8人が本棚に入れています
本棚に追加
しばらく走った後。キノは予約を入れておいた格安ホテルの前でエルメスを止めた。
すると、今度は三十代に見える女性がキノ達を見付け、駆け寄って来た。
「まただね」
「これで四人目だ……」
女性は興奮した様子で、息を切らしながら言った。
「旅人さんですよね? 我が国にようこそ!」
「はい。ボクはキノ。こちらは相棒のエルメス」「どもねー」
キノが本日四回目の自己紹介を終えると、女性は慌ただしいまま、
「キノさんにエルメスさんね。ねぇ、もし時間があるのならお話をお願いしても良いかしら」
本日四回目の台詞を言った。
「はいはーい。その前に質問して良い?」
「あら、どうぞ?」
「この国の、『希望通りの職業に就けた人の数』って、どれ位なの?」
「…もしかしてお二人共、この国の誰かとお話した後で?」
「はい。これで四度目です」
「あらまぁ、ごめんなさいね。同じ話を何度も何度も。えっと…希望職に就けた人の割合でしたっけ?」
「はい」「そうそう!」
「そんなの、ほとんど0に近い数字ですよ」
「え?」
「この国では“職場体験”が頻繁に行われていて、国民達は就職に意欲的なんでしょ?」
「ええ、勿論その通り。けれど誰一人、『自分が夢見ていた通りの職業に就ける』だなんて思っていないわ。 夢は夢。世の中そう上手くいっていたら、誰だって苦労しないもの。それは旅人であるキノさんが一番ご存知でしょう?」
最初のコメントを投稿しよう!