私の愛した可愛い子

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  園咲琉兵衛と名乗る男が護衛して貰いたい子供がいると私の所に依頼しにきた。 そいつの城のような家、通された大きなテーブルのある部屋、たくさんのメイド、気の強そうな長女冴子もさることながら、なにより強烈な威圧感を放つ依頼者。 この家は何かある、直感で感じた。 「護衛して頂きたい子供は我が家の長男です。若菜、連れてきなさい」 「はい、お父様」 この家の次女若菜がさっと席を外す。 それと同時に琉兵衛がパチンと指をならす。 するとなぜか集まっていたメイド達が一斉に席を立ち、一礼してから1人残らず部屋から出て行った。 「連れてきましたわ、お父様」 メイド達が出て行ってから数分後、おおきな扉の向こうから、若菜が1人の少年の手を引いてやってきた。 少年は私の姿を見つけるとさっと若菜の後ろに隠れてしまった。 「この子には普段から家族以外の人間の前には姿を出してはいけないと言ってあるのでね。さぁ、こっちにいらっしゃい。この男はお前の味方だ」 前半は私に後半は少年に声をかける。 こんな少年に味方だの意味が分かるのだろうか。 案の定少年は若菜の後ろから出ようとしない。 「ちょっといいか?」 「どうぞ」 琉兵衛に一言かけ自ら若菜の前に行き、片膝を付き少年の目線に合わす。。 「君、名前は?」 少年は何も答えない。 でも若菜の後から少しだけ頭を出し、くりっとした大きな目でじいっと俺を見つめている。 「お名前は?って聞かれてるでしょ」 肘で若菜につつかれて、私と若菜を交互に何度も見つめてから小さな声を発した。 「……ざ………と…」 「ん?」 「こら、元気よく挨拶なさい!」 少年は若菜に怒られ首をすくめる。 私は若菜の顔の前にすっと手を出し、構わないと告げた。 「すまない、もう一度」 少年の前に人差し指を立てる。 少年はきゅっと若菜の服を握り口を開いた。 「…そのざき…らいと…です」 「来人…か。私はファングだ」 来人の前に手を出すと今度は琉兵衛と私を交互に見つめ、おずおずと手を差し出してきた。 私は小さなその手を優しく両手で包み込んだ。 「よろしく、来人」 これが私達の出会いだった。  
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