私の愛した可愛い子

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  「邪魔するぞ」 ガチャと左手でドアノブを回して中に入ると無駄に広い部屋が広がっていた。 たくさんの本が置かれた部屋。 子供部屋というよりはまるで書斎だ。 その部屋の中心で、白い画用紙の上に無邪気に落書きをする若菜と来人がいた。 「あら、お父様にファング。どうしましたの?」 若菜がにっこり笑ってこっちを見る。 続けて来人が顔を上げる。 琉兵衛が二人に近づいていき、若菜の手をつかんで立たせた。 「若菜、少し席をはずしなさい」 「どうしてですの?」 「ファングと来人を友達同士にさせるために二人きりで話をさせるのだよ」 若菜は首をかしげたまま目だけ私と来人だけを交互に見つめる。 「でも来人は今まで家族意外とお話したことがないのよ?いきなり二人なんてきっと無理よ…ねぇ来人?」 眉を八の字にし、きょろきょろしていた目線を来人にだけに向ける。 来人は何度も首を縦に振る。 「若菜。私もそれは分かっているよ。でも来人のためにも…な?」 琉兵衛は若菜の顔を覗き込む。 若菜は目線を下に向けて小さい声で答えた。 「……分かったわ、お父様…」 「若菜お姉ちゃん!」 来人の目が明らかに潤んでいる。 唇をきゅっと噛んでじいっと若菜を見つめる。 でも若菜はその目線を合わせそうとはしなかった。 「さあ、若菜。行こう」 琉兵衛は若菜の手を引き部屋を出て行った。 部屋に重く長い沈黙が広がる。 来人ずっと指で唇をさわっている。
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