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階段を駆け上がっていく間、疲れは感じなかった。
上に進むにつれて、身体が軽くなってきて、まるで飛んでいるような……。
「あっ……」
背中に翼らしきものがあった。まだ小さいが、階段を進むにつれ少しずつ広がってきた。
「…きた」
最初の関門Ⅰの扉。
私は勢いよく扉を開けた。
そこにいたのは、おむかいのナナミさんだった。柴のリクちゃんの散歩中のようだ。
ナナミさんは、ケータイを見ながら歩く癖がある。そして、恐れていた事。
団地から出て来た工事車両がナナミさんに気付いていない。
ナナミさんが恐怖で固まってしまった。私は咄嗟に、
『リク!お願い!』
と叫んだ。
リクは素早く反応して、ナナミさんをわき道に引っ張った。
拍子で転んだものの、かすり傷で済んだ。
『リク…ありがと』
ひと知れず呟くと、リクは私の方をみて嬉しそうに尻尾をふった。
いつの間にか、階段に帰っていた。
私は再び登りはじめた。再び次の関門Ⅱの扉。
扉を開けた。すぐにありがちなシチュエーションだと判断した。
交差点での事故。そしてその可能性があるのは、2年前に別れた私の父親だ。
時刻は深夜。一台のバンが怪しい動きをしていた。
「居眠り運転…!」
私は父親の離婚理由を知っていた。
頑張りすぎて、鬱になったのだ。
「また無茶して…」
車内に近付いて、
『父さん、起きろ!家で寝なさいーーー!』
駄目もとで叫んだ。
「!」
父親はハッとして目を覚ました。頭を振って眠気を覚ますと、無事帰路についた。
階段に帰ると、異変に気がついた。翼が小さくなっている。
リクは動物だから、天使の能力が使えるらしい。しかし、それ以外は羽根の魔法を使うようだ。
羽根は階段を進むにつれ、また少しずつ広がっていく。
随分と扉をくぐってきた。小学生、中学生、先輩、後輩、近所の幼稚園生、祖母、祖父、叔、叔母弟、たくさんの人を救った。
最後の関門XⅢの扉。
開けて、絶望した。
「……克也……」
克也までがターゲットになるのか!…克也のことはよく知ってる。渡れそうなら、渡るひとだ。
仕事帰りだろう。疲れた顔してる。
車が途切れた。隙をついて走って渡ろうとした。私は警戒した。だが、難なく渡ってしまった。
ホッと一安心した時だった。
カーブミラーのない曲がり角、私
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