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窓を開けると潮風……。
……そして眼下に広がるオーシャンビュー。
飛行機の高度が下がるにつれて、そんな漠然としたイメージの片鱗が彼、長良紀義(ながらのりよし)の脳裏に浮かんできた。
(何も無い住宅街暮らしだったけど、いざ去ってみると寂しいもんだな……)
同時に、つい数日前までの[過去]も美化されて頭をよぎる。
『間も無く、当機はポート・ザ・ニュートーキョー第二海中空港に到着します』
新都航空航路、所謂NALの機長が、さぞや大儀そうに述べた。
「ねぇ、紀義。十年前の誰がこんな事になるなんて考えられたかしら」
紀義の姉、癒海(ゆみ)もNAL機長のが伝染したのか、大儀そうに呟いた。
それについては、紀義自身も同意見だった。だから彼は何も言わずに
「んー」
と否定とも肯定ともつかない呻り声を漏らした。
ちょうどその時、今まで田舎から一歩も出た事が無かった母、千帆(ちほ)が狂喜と興奮の入り混じった大声で、
「人間と科学はここまで来たのよ!!」
と喚き散らしていた。
飛行機、――いや、海に入ったから船ないし潜水艦的訳になるのか――が潜水したところだった。
窓の外には澄んだ青空と、紺碧の海の、見事なコントラストが映し出されていた。
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