第三章 葉月の日記

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私は朝からすこぶる付きで機嫌が悪い。 原因は私の対面で呑気にトーストをかじっている兄さんだ。 短く刈られた髪にこれといって特徴のない顔。 つまらない、取るに足らない、平均的。 そんな言葉がお似合いの、私の兄さん。 今日は私の誕生日だ。 そのおめでたい日にこの人は、 「野暮用で遅くなります」 なんて言うのだ。 例年皆早目に帰ってきて、いつもより早い時間に、いつもより少し豪華な食卓を囲むのが通例なのに、だ。 別に、兄さんが遅れるから怒っているわけではない。 ただ毎年のイベントを、例年通り進められないことに怒っているだけだ。 それに、例年だと二日位前には皆プレゼントを買って各自の部屋に隠すものだが、今年の兄さんにはその動きが見られない。 別に、先月のお姉ちゃんの誕生日には一週間前から用意していたのに! ……なんてことは思っていない。 ギリギリになって用意する段取りの悪さに苛立っているだけだ。 本当に、それだけ。 「ごちそうさまでした。 では、行ってきます」 そう言って、私の方を見ることもせずに家を出る兄さん。 いつもなら兄さんに何か要求するところだけど、今朝ばかりはそんな気分ではない。 その事に、兄さんも一言も触れない。 ……何よ、兄さんの馬鹿。
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