第三章 葉月の日記

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今日は授業にも身が入らず、友達から 「お誕生日おめでとう」 と言われても、何やら気の抜けた返事しかできなかった。 ぼんやりと窓の外を見て、溜め息をつく。 「おやおや、お兄様関連で何かあったのかなぁ? 元気がないぞ、姫」 後ろから突然抱き締められた。 こんなことをするのは一人しかいない。 「違います。 あと、私を姫と呼ばないでください」 振り向くと案の定。 私の幼馴染みにして親友の佐倉弥生(サクラ・ヤヨイ)の姿。 「隠さない隠さない。 姫が恋する乙女モードにはいるのは、春樹さんのこと考えてるときだけだもんね」 明朗快活という字が服を着ている。 そう評するのが相応しい彼女は、人の話を全くと言っていいほど聞かない。 ちなみに、昔から姫と呼ばれているが、理由は何となく姫っぽいから、だそうだ。 「で、用はなんですか?」 我ながらつっけんどんな物言い。 正直、今日は弥生のテンションについていく気力はない。 「おっと、忘れるところだった。 はいこれ! ぷれぜんとふぉーゆー!」 弥生のポケットから取り出されたのは小さな紙袋。 袋には小さなリボンがあしらわれていた。 中身は、 「指輪?」 出てきたのはビーズの指輪。 そうか、ビーズ細工は弥生の趣味だっけ。 「弥生、ありがとうございます。」 我知らず笑みがこぼれる。 「いいえ。 姫の笑顔のためならば!」 にかりと、弥生も笑った。
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