第三章 葉月の日記

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もうすぐ夕食。 だというのに兄さんは帰ってこない。 自分の席につき、苛々と時計を眺める。 お腹が空いているだけで、兄さんが帰ってこないことに苛立っているわけではない。 行儀が悪いとわかっていながら、指先でテーブルを叩くのをやめられない。 兄さんはまだ帰って来ない。 全く、妹の誕生日をなんだと思っているのだろう、あの朴念人。 ……まだ、帰って来ない。 テーブルの上に並べられた料理。 兄さんの分にだけ、ラップが被せてあるのが悲しい。 早く、帰ってきて。 皆が席についた。 対面の空席を見やる。 ……本当にとうとう帰ってこなかった。 兄さんの馬鹿! 皆がいただきますを言おうとした、その時だった。 「ただいま戻りました」 来た! 一瞬腰を浮かしかけ、すぐに座り直す。 兄さんは当然のことをしただけだ。 それを出迎えて労う必要はない。 別に、嬉しさを隠しきれない顔を見られたくないとか、そんなんじゃない。 一旦自室で着替えてきた兄さんの手にはなんの飾り気もない、薄茶色の紙袋。 例年通りだ。 その例年通りが、少しだけ嬉しい。 それにしても、贈答用の袋に入れてもらうくらいのことは出来ないのだろうか? 兄さんのバカ。
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