第三章 葉月の日記

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全員揃っての夕食を終え、プレゼントを受け取る。 お父さんは図書券。 毎年、誰にたいしてもこれなのはどうだろう? お母さんは料理の教本。 目玉焼きすら消し炭にする私に、イタリア料理など作れるだろうか? お姉ちゃんからは万年筆。 いや、これは成人祝いでは? 言っちゃ悪いが、今年は微妙だ。 最後は兄さん。 せめて、去年の修正テープつきボールペンより良いものでありますように。 紙袋の大きさは一抱えほど。 文房具の類いではないだろう。 意を決して、開けてみる。 中身は白の布地。 まさか、裁縫の練習セット、なんて落ちなのか? 取り出したそれは、 「ワンピース?」 飾り気のない、シンプルなデザインのワンピース。 これから来る夏にぴったりの涼しげなそれは、間違いなく兄さんのチョイスらしい実用性重視。 袋をよく見ると地元商店街の少しお高い服屋のマーク。 家から離れた場所にあるそこは、誕生日プレゼント等で格安でオーダーメイドできるサービスをやっていたはず。 兄さんは、私のためにずっと前から用意してくれていたのだ。 子供みたいに拗ねていた自分が少し恥ずかしい。 兄さんはそんな私の頭を撫でると、にっこりと笑っていった。 「葉月、誕生日おめでとうございます。」 ふんだ。 別に兄さんにそんなこと言われたって、たいして嬉しくなんか…… 全く、私をあんなに心配させて。 私は今日はじめて、このせりふを口に出した。 「兄さんのばか。」
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