序章 巻頭分に代えて

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「兄さん、荷造りまだ終わらないんです か?」 「やかましいです。 遅いと思うなら手伝ったらどうですか?」 「嫌です」 まったく、即答ですかこの嫁は。 「手伝ってたら作業中の兄さんの背中を見られないじゃないですか。 素敵ですよ、今の兄さんは」 ……歯の浮くような台詞を、恥ずかしげもなく言うものですね。 時刻は夕方過ぎ。 だからでしょうね。 俺の顔が赤いのは。 こちらをじっと見る妻、葉月の視線を感じながらの作業。 思ったよりやりづらいですね。 「……あ」 適当に段ボール箱に突っ込もうとしたノートの束。 そこには懐かしいものが眠っていました。 「どうしたんですか?」 「いやなにね、高校時代の雑記帳を見つけまして」 古ぼけた数冊の大学ノート。 この中に、高校時代の馬鹿に騒がしく、それでいて優しい、あの頃の日常の全てが詰まっている。 開くと、あの頃が蘇るような、そんな気がした。
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