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カセットコンロの上でグツグツとすき焼きの鍋が煮える。
割り下の食欲をそそる香り。
「……葉月、卵とってくれませんか?」
「姉さん、お願いします。
私の手を介したものは兄さんのお口に合わないようですから!」
そして、キッとこちらを睨み付ける葉月。
凄まじい怒気が俺に向けられています。
葉月が不機嫌な理由はなんてことありません。
葉月が作ってくれた昼食を、うっかり
「不味すぎる!」
と某裸蛇風に言ってしまったからで……
いや、本っ当に不味かったんですよ?
だって、ラーメンスープの中に潜むハーブの香りと、麺の粉臭さ、何を考えてるのかわからない具材の山、謎の薬臭さが渾然一体と不協和音を奏でながら胃と鼻を直撃したんですよ!?
「兄さん、最近体調が悪そうだから、少しでも体にいいものをと、そう思って漢方薬とか色々入れたのに……」
うつむき、涙を流す葉月。
……姉さん、こっそりラーメンを流しに捨てていた貴女が、俺を責めるような目で見る権利がおありか?
「葉月、アレンジはせめて基本ができてからしなさい」
がたんっ!
と、席を立つ葉月。
「に、兄さんのば……っ!」
「ストップ」
激昂する葉月を姉さんがやんわりと制止する。
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