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赤く燃える太陽が山間に沈む夕刻。
今朝ネロアが起こされた時間から半日、ネロア、ユナ、シャロンは村を駆け回ってタリスを探していた。
この狭い村では村の人間のほとんどが村の全ての人間を知っている。
家の中をくまなく探し、隣家を訪ね、村の半数近くの家を回った。
しかしなんの成果も無く、三人は居間のテーブルについていた。
「お母さん、どこ行ったんだろ…」
疲れた沈黙を破り、ユナが不安をこぼす。
しかし彼女の疑問に答えの出ぬまま、再び沈黙が訪れた。
「…だぁッ、もう」
しばらくして負の静けさに耐えられなくなったのか、今度はネロアが声を上げた。
「とにかく、もう一度確認するぞ。シャロン、俺達が出かけてた間、タリスさんにはどこも変わったところは無かったんだな?」
ネロアとユナが留守の間、シャロンはタリスの一番近くにいた人間だった。
タリスの捜索を始める前と同じことを再度、ネロアはシャロンに聞き直した。
「はい、変わったことなんてありませんでした。何かを隠してるようにも見えなかったし」
「まぁ、タリスさんの場合、隠していても俺達が気付くことはないだろうけどな」
タリスは聡明にして機転の利く女性だった。
何か問題やトラブルがあったとき、まるでそれを知っていたかのように良い方向へと導いてしまう。
ネロア達にとってそんな親を持つことは、誇りであり憧れの存在だった。
そのタリスの突然の失踪というのが、ネロアに異常な胸騒ぎを覚えさせていた。
「…仕方ない。日も落ちたし、今日はもう休もう」
心配なのは自分だけではない、男である自分がしっかりしなければ。
そう思い、ネロアはすっかり消沈してしまった二人を引っ張り、タリスを探すのは明日へと持ち越すこととなった。
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