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そこまで考えてネロアはハッとする。
自分の考えを振り払うため頭を振るう。
最悪の場合を想定するのは悪いことではない。
しかし彼は自分の消極的な思考を呪った。
タリスがいなくなったと決まったわけではない、そこまで悲観的になるのは異常だと。
疲れによる思考回路の停滞だと考え、ネロアは眠る体勢に入った。
明日は村の外を探そう。
村の外には魔物もいる。
村の中とは違ってユナやシャロンを一人にするのは危険だ。
一緒に行動することになれば、効率は半減すると考えていい。
そうとなれば効率の良い探し方をするしかない。
しかし手がかりが少なすぎる、無いに等しい状況だ。
今朝の夢といい、日常が崩れるのは唐突だな…。
そんなことを考えていると次第に視界がまどろんでくる。
そしてそれに抗うことなく、意識は夢へと落ちていく…
………そのはずだった。
意識が急速に覚醒していく。
ネロアは布団を蹴って跳ね起き、居間を飛び出し、慌しく階段を登って二階の自室の扉を開いた。
唐突な日常の崩壊?
何を言っているんだ。
昨日から『日常』には歪みがあった―――。
ネロアは机の引き出しを引く。
背後では何事かとユナとシャロンが部屋の中を覗いている。
「どうしたの?何があったの、ネロア?」
「…これだ」
彼が引き出しから取り出したのは一枚の封筒。
それは昨夜、タリスに渡されたものだった。
封を切ると中には複数の紙幣と別に、半分に折りたたまれた紙が入っていた。
それを引き抜き、ネロアは後ろの二人に広げて見せる。
「これがタリスさんを探す手がかりだ」
その紙にはたった一文、こう書かれていた。
『この世界を解け』
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