第零章 彼らの日常

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  鬱蒼と生い茂る森の中の、そこだけ削られたかのようにぽっかりと開けた空き地。 三六〇度見渡す限り木で覆われているその中央に、少女が一人佇んでいた。 「……」 瞳を閉じ、唇からは言の葉が溢れている。 歌のように透き通るその旋律は木々の葉擦れに戯れて優しく響いていた。 歌声が風を渡る中、少女に近付く黒い影。 その目的は癒しの声ではなく彼女自身だ。 じり、じりっと歩み寄り、射程圏内に入った瞬間、茂みを突き破って影が少女に襲い掛かる。 しかし。 「こっちだ、化け物!」 爪が届くというところで突然の声に動きを止める。 上空から、太陽を背に何かが飛んでくる。 影が反射的に飛び退くと、先程まで立っていた地面は刃で鋭く抉られていた。 「ほぉ、さすがはメガウフルってとこかな」 楽しめそうだ、と言い、刃の主は剣先を相手に向ける。 その風格にただならぬものを感じたのか、影は茂みの中へと去っていった。 「おいおい。遊んでくれないのかよ」 男が剣を納めようとした時、森中に遠吠えが響き渡る。 それは仲間に敵の襲撃を伝える警戒の合図。 「なるほど。お友達を呼びに行ったのか。そいつはありがたい…だが」 剣を抜き直し、周囲の気配に目を通す。 空き地はすでに荒い息遣いに囲まれたようだ。 「友達が多いことで。なかなかの人望だな」 魔物だけどな、と付け足し、男は一人で笑う。 周りの軍団は今にも飛び掛らんとする雰囲気だ。 「んん~?俺に勝てる気でいるのか?いいだろう、相手になるぜ」 敵の数はおよそ三十。 その中でさえ男は不敵な笑みを崩さない。 「ところで、魔術ってヤツを知ってるか?あれは凄いぜ。剣を遥かに凌ぐ破壊力、術者を選ばぬ世界の理。詠唱中に隙だらけなのは致命傷だが…長ければ長いほど、その力は凄まじくなる」 その時、少女が今まで頑なに瞑っていた目を見開いた。 紡いでいた言葉の鎖は足元に巨大な魔法陣を浮き上がらせ、風が吹き、木々はざわめき、森全体を震撼させる。 奇怪な現象に巨狼達は統率を乱し始めた。 「言い忘れてたが彼女は囮じゃない。彼女は俺の、大切なパートナーだ!」 男が地を蹴る。 それと同時に少女の魔力が森中を覆い尽くした。image=158978266.jpg
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