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§
白。
見渡すかぎりの白。
自分の影さえ白く、地に足が着いているかも定かではない。
真っ白な世界の中、唯一緋色を放つ少年。
「どこだ、ここは…?」
ネロアは神経を集中させる。
目に映るものが何も無い以上、気配を察する他はない。
索敵は彼の得意分野だったが、どこからも何も感じられなかった。
「夢にしては随分感覚がはっきりしてるな」
目の高さに手を持ち上げ、拳と掌を繰り返す。
五体の満足を確認していると、突如前方に気配が生まれた。
背中の愛剣を取ろうとして右肩の上で虚空を掴む。
距離を置こうとするも体は浮いていて後退できない。
周りの痛いほどの白、その中にありながら目に見えてはっきりと光が集中する。
それは不思議と眩しくはなく、少年は光に包まれるような感覚にとらわれた。
懐かしささえ感じる安堵感の中、微かな声が耳につく。
《……い………なさい》
「…なんだって?」
《…目覚めなさい…》
透き通るような少女の声。
初めて聞くその声に少年は尋ねる。
「それは、起きろってことか?残念だが、それができりゃとっくにやってる」
《…目覚めなさい…自分の力に》
その言葉に、今度は探るように問いかける。
「ならアンタは、俺の力を知ってんだな?俺の力は…」
《目覚めなさい…目覚…なさ……》
少女の声が遠ざかる。
煮え切らないネロアは光に向かって手を延ばした。
「待てよ!こっちは聞きたいことが…っ」
指先が触れようかという瞬間、光は霧散し、白から転じて意識は黒く塗り潰されていった。
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