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少年は草木が生い茂り川のせせらぎが聞こえる森のなかにいた。
木の枝では小鳥が囀ずり優しく緩やかな風に撫でられ葉が擦れる音がする。
一見すれば楽園の様だが紛れもない現実だ。
ふいに声が聞こえた。
少年の名を呼ぶ声だ。
「──、お昼よ戻ってらっしゃい」
「はーい、今行くよ~」
少年は元気よく母に返事を返しタッタッと駆け出す。
森がひらけた場所には木造の家屋が建ち並ぶ小さな村があった。
その一番端の家に少年は駆け込んだ。
「お母さん、お昼は何?」
「今日は貴方の好きな物を沢山作ったのよ」
「本当!?やった~早くお父さん帰って来ないかなー」
「ふふふ」
少年はご飯が待ちきれないらしく両手に持ったフォークとスプーンを机にカツカツとせわしなくぶつけている。
──ガチャ
玄関の扉が開き長身痩躯の男が入ってきた。
「お父さん遅いよ~僕もうお腹ペコペコ何だから」
「おぉ、悪い悪いさぁ食べようか」
ちょっとして食卓の準備は整い全員がお決まりの挨拶で食事を始める。
子供が元気よく食べる姿を見て両親は微笑み合い他愛も無い話に花を咲かせ笑い合う。
まるで絵に書いた様な幸せな家庭、永遠に続くと思われる平和と幸せ。
だがそんなものは存在しない。
──ガチャ!
扉が激しく開かれる音がした。
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