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しかし、確証はない。
その人物が言霊という、最大最強の禁じられた能力を持ち合わせていたということも聞いたことがない。
知るわけがない。直久はその人物に一度も会ったことがないのだから。
だが、他に該当する人物はいないはずだ。
夢魔が出会った“男”。
もうすぐ子供が生まれると言った“男”。
直久が生まれる前、ゆずるを身ごもったゆりを残して姿を消した――ゆずるの父親だ!!
「さーてと」
雷に打たれたように動けなくなった直久たちを引き戻すかのように、夢魔がのん気な声を出した。
「ボク、お腹空いてきちゃった」
夢魔は、一歩足を前へ繰り出した。
ギクリとなったゆずるも、さっと直久を背中に庇うようにして一歩前に出る。
(ゆ、ゆずる……)
――『夢の中で夢魔と鉢合わせしたら、危険だね。夢はヤツらのテリトリーだから、あっという間に食われるかもしれない』
弟が笑顔でそう言っていたのを思い出した。喉がごくりと鳴る。
(く、喰われるって、まじかよ!?)
夢魔がまた一歩前へ進む。
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